それでも僕が憶えているから
信じられない。
信じることを自分に許したくない。
だけど今大事なのは、きっとそんなことじゃない。
彼は蒼ちゃんの体を使い捨ての道具のように簡単に傷つけることができる。
それはつまり、人質をとられたのと同じことだから。
「蒼ちゃんは……どこにいるんですか」
おそるおそる尋ねながらも、奇妙な感覚に襲われた。
どこにいるも何も、蒼ちゃんの体はたしかにここにあるのに。
「蒼なら眠ってる」
当然のような口調で返ってきた言葉に、わたしは頭が混乱してしまう。
眠ってるって?
どういうこと?
困惑して眉根を寄せると、彼は血のにじむ腕に視線を落として冷ややかな声で話し始めた。
「僕が外に出ている間、いつも蒼は眠るんだ。バカみたいに深く眠って、何も見ようとしない。あいつは弱虫だから、認めたくない目の前のことからすぐに逃げる」