それでも僕が憶えているから
数秒間、周囲の時が止まったような静寂。
いつのまにか蝉の声も止んでいて、わたしの激しい呼吸音だけが響いた。
枝の先端はこめかみから5センチほど離れた場所で止まっている。
左手を顔の横まで上げた体勢のまま、冷めた目でこちらを見下ろす彼。
震えるわたしとは裏腹に、眉ひとつ動かさない表情は蝋人形のようだ。
その顔を見ていたら、徐々に怒りがこみあげてきた。
「何なの、あんた……何がしたいの?」
腕を強くつかんだまま金切り声を絞り出す。
あまりにも理不尽で、めちゃくちゃで、こんなヤツが蒼ちゃんの顔をしていることが許せなかった。
「この体はあんたのものじゃない! 蒼ちゃんを傷つけないで!!」
「じゃあ約束しろ」
まるで初めからこのタイミングを狙っていたかのように、彼が声をかぶせた。
「僕が目的を達成するまで絶対に邪魔すんな」
「目的……?」