それでも僕が憶えているから

「……わかった」


長い沈黙のあと、わたしが絞り出した答えはそれだった。


「あんたの言うとおりにする……。だから、蒼ちゃんを傷つけないで」


本当は逃げだしたかった。
けれどそんな“自分の気持ち”か、“蒼ちゃんの安全”か。

ふたつを天秤にかけたとき、重いのは後者だったのだ。


答えを聞いた彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべると、左手に持っていた木の枝を投げ捨てた。

やっと凶器を手放してくれたことで、わたしは小さく安堵の息をはく。

セミの大群が再び鳴き始めた。
鼓膜を突き破るように、けたたましい声。

わたしは汗でびっしょり濡れた手を握りしめながら、彼をにらんで言った。


「ひとつだけ確認させて」

「あ?」

「その目的ってやつが達成できたら、あんたは消えてくれるんだよね?」


彼のまつ毛がかすかに揺れる。

でもそれはほんの一瞬だけで、すぐに冷たい目つきに戻ると、ふんっと鼻で笑った。

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