それでも僕が憶えているから
わたしがホタルの存在を知っていることを、蒼ちゃんは知らない。
おそらく人格が交代している間のことは覚えていないのだ。
だから5日前、ホタルから蒼ちゃんへと再び人格が戻った際も、まるで数秒間ぼんやりしていて我に返ったかのような様子だった。
腕の傷にも「あれ? いつのまにケガしたんだろう」なんて、のん気な反応だった。
『僕が外に出ている間、いつも蒼は眠るんだ』
ホタルが言っていたあの言葉は、つまりそういう意味なのだろう。
日陰になっている建物の壁にもたれて、蒼ちゃんと並んでアイスを食べた。
ソーダ味のアイスは、頭上に広がる夏の空と同じ色をしている。
口の中でかたまりを砕くと、シャリシャリという音とともに清涼感が鼻から抜けていった。