それでも僕が憶えているから
空になったタッパーをわたしが片付け始めると、ホタルは立ち上がって冷蔵庫を開け、自分の分の麦茶を入れた。
水分をとる習慣はちゃんとあるのか、それともわたしに言われると思って先回りしたのか。
「ねえ。こないだ、あんたが言ってたことだけど」
タッパーを入れた袋のひもを結びながら、気になっていた話を切り出した。
座って麦茶を飲んでいたホタルが、グラスに唇をつけたまま目線を上げる。
「あんたの人格になってるとき、蒼ちゃんは眠ってるんだよね。てことは、その間の記憶はまったくないの?」
「寝てるヤツが覚えてるわけないだろ」
やっぱり、そうか……。
「じゃあ、わたしとあんたが会っていることも知らないんだ」
「それどころか、僕の存在自体に気づいてない可能性もある」
「え?」
「僕が声をかけても無反応だからな」
声をかける……。いまいち想像できないけど、異なる人格同士で会話ができるものなのか。