フカミ喫茶店のワケありアンティーク


「来春、これあげる」

「これ、空くん秘蔵のチョコレートじゃ……」


ゴソッと目の前に積まれたのは、個々に包装されている一口チョコレート。空くん曰く、頭を使うから糖分補給が必要なんだそう。その大事な物資を分け与えてくれているのだ。

せっかくの好意、嬉しいはずなのに、でもなぜだろう。先ほどから私の胸の内を支配するのは。

『恐怖』、この二文字だった。

「来春さん、こちらオレンジピールのハーブティーです」

「……え、私バイト中……」

紅茶を入れてくれたのは深海さん。見慣れたはずの笑顔に、明らか労りを含ませているのは何故だろうか。

「オレンジピールは、イライラや心が落ち着かない時、リラックスさせてくれる効果があるんですよ」

「はぁ……」

──だから、何で!?

私はイライラなんてしていない。落ち着いてるし、むしろバイトなのにこんなに緊張感無くていいのかと思うくらいには平常心だ。
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