フカミ喫茶店のワケありアンティーク
「みなさんと残りの時間を共に刻みたい。なので私は……この止まったままの時間を動かしたいと思います」
「懐中時計、動かす?」
空くんがちょこんっと深海さんの傍に座り、首を傾げる。深海さんは迷わずに、いつもの優しい微笑みを浮かべて頷いた。
「空くん……はい、もう決めました」
「これ、鍵で逆時計回りにゼンマイを巻き上げれば動くよ。時間は表の文字盤のカバーで合わせられるから」
空くんは笑って答えた。その言葉にはマスターの決断を応援する気持ちがこもっているような気がした。
「マスター」
拓海先輩が懐中時計と鍵を深海さんに渡す。
深海さんは「ありがとうございます」と言って受け取り、鍵でゼンマイを回した。
すると、コチッ、コチッと止まったままの秒針の針が時を刻み始める。
「ああ、動き出したのですね……ようやく、私達の時間が」
雪さんも心のどこかで過去に捕らわれていたのかもしれない。だからこそ、後悔が思い出に変わる瞬間をずっと待ち続けていたのかな。
私はどこか晴れた顔で微笑む深海さんを見つめながら、深海さんの歩む道が、雪さんの願った幸せに満ちているといいなと思った。