両手いっぱいの花束をあなたに


「はい、いらっしゃいま……っ!?」


お客さんだと思って振り返ると、私は驚きに言葉を失った。


そこには、ダークブラウンの髪を乱して、肩で息をする、颯がいた。


え、えっ!?

ま、幻を見てるの、私はっ……!?

会いたいって、本当は傍にいたいって、思ったから?



「うっす……悪い、気になって、来ちまった……」


颯は、顔を赤らめて、私から視線を逸らしたまま、そう言った。


自転車で来たのか、店の前に颯のいつも乗っているシルバーの自転車が停めてある。


颯は、後頭部をガシガシと掻きながら、私の前に立つ。


「花……赤いチューリップの花束を、買いてーんだけど…」


「………へ!?チュ、チューリップ??」


どうして逃げたのかって聞かれると思った。

なのに、颯は予想外な事に、花を買いに来たらしい。

部活終わりに、わざわざ……!?








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