リリー・ソング
「ほら、リリー。」
深夜が私の背を押した。
「え、私?」
「そりゃあそうだよ。きみのコンサートなんだから。」
深夜が言うと、メンバーに笑いが広がった。自然と円陣が組まれている。
「ええっと…」
私はとりあえず右手を差し出す。その上にどんどん手が重ねられていった。みんな楽器を鳴らす、尊く、暖かい手だ。感謝しなければならない。
「皆さん私にお付き合い頂いて本当にありがとうございます。えーと…」
しまりがない。みんな、にやにやして私を見ている。
「…時間を頂いたぶん、皆さんにも楽しんでもらえるように頑張ります。期待して、楽しみにしてて下さい。じゃなくて…楽しみましょう!」
おーっ、と笑い混じりの鬨の声を上げて、みんながわらわらとステージに向かっていく。
深夜が最後に私に微笑みかけて、袖を抜けていった。
その場のスタッフの人達によろしくお願いしますと頭を下げてから、私も足を踏み出す。
幕は閉じているけれど、私を呼ぶ声がたくさん聞こえた。
僅かな照明にキラリと輝くドラム、ギター、ベース、サックス。スタンドマイクに向かう間、それぞれを手にする一人一人が、私の顔を見て力づけるように頷いてくれた。それからバンドリーダーとして今日まで音楽の全てを取り仕切ってくれた深夜が、グランドピアノの前で待っている。
深呼吸をしてマイクの前に立った。
幕が上がるカウントがゼロになった瞬間、真っ白な光が一気に私をめがけて降り注いだ。
眩しくて目が潰れそうになると思っていたけど、全然そんなことはなくて。
ただ私を待ち望んでいた人たちの声が跳ね上がって、全身の肌が揺れた。身体が分厚い轟きに包まれるのを感じた。