リリー・ソング


…予知夢みたいなものだったのかしら。
なぜ、昔の夢なんかを見たのか、わかったような気がした。

私はかつての自分の歌が響き渡るリビングで、ぼんやりとそれを聴いていた。

深夜は、「僕はどちらでも構わない。リリーが決めていいよ。」と、私を残して防音室に籠もってしまった。

この歌、"benthos"は、初めて私が歌詞を書いて、初めて深夜が私の為に作ってくれた曲だった。

歌詞の書き方なんかわからない、と言ったのに、なんでもいいから、と深夜は私を促した。

『自分が歌うことを想像しながら作ってごらん、できるよ。』

深夜が言う通りできた、のかどうか、今でもわからない。
ただ、あの時私にはどうしても、これしか書けなかった。
心を絞るようにして言葉を並べた。

深夜はほとんど殴り書きみたいな文字の羅列をじっと見つめて、わかった、と呟いて。
三日後には、詞はほとんど変わらないまま、おそろしいほど美しい曲になって完成していた。
あとは私が歌うだけだった。

…にゃーん、と甘えた声がして、柔らかなかたまりが私の膝に乗った。

「ただいまクリーム、寝てたの? 起こしちゃったね、こんな歌かけちゃったから…」

白い猫。もう一人の同居人だ。
洗面所にでもいたのだろう。
いつも家のどこにいるのかわからないくらい気まぐれだけど、私の心が翳ると、決まって擦り寄ってくる。
< 16 / 104 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop