リリー・ソング

『可愛い! クリームっていうの? 白いから?』

この家に来た日、迎えてくれたクリームを抱えて深夜に尋ねると、

『いや、この子を買った頃、ちょうどクリームをよく聞いてる時期だったから。』

と返されて、私がぽかんとしていたら、ああクリームって知らない? と深夜が仕事部屋からCDを持ってきて、リビングのデッキにセットした。
だから、私がこの部屋で初めて聴いた曲は、CREAMの"Four Until Late"だ。

冬のよく晴れた、窓から西陽の射し込む、夕方だった。
私はその心地の良いリズムに合わせて踊り、深夜は笑い、クリームは私たちを不思議そうに見上げていた。
泣きそうになるくらい、幸せな思い出。

「ねえクリーム、この曲を映画に使いたいんだって。どう思う?」

にゃーん、とクリームが返事をする。

「なんで、こんな曲…」

一般的には、私は"鮮烈なデビューを飾った"と言われているけれど、実際はそうじゃない。
深夜はひたすらに美しい曲に仕上げたけれど、こんな暗い曲がヒットするわけがなかった。
リリースの後しばらくは、チャートの上位にランクインすることはなかった。ただ、玄人筋では話題になっていた、と榎木さんは鼻高々にいつも言っている。

『美山深夜がとんでもない新人を発掘してきたってもっぱらの噂ですよ。』

それに目をつけられ、数ヶ月後、CMのタイアップの話が来た。
二曲目はそれに合わせて、深夜が"売れる"ことを前提に曲を書いて、それとデビュー曲を合わせて歌ったテレビの生番組で爆発的に売れた。
その機を逃さずにアルバムをリリースして、私は世間的に"歌姫"の称号を与えられた。
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