リリー・ソング
「こっちはこっちの仕事があるんですー。」
「あ、そうなの? ごめん。」
「あなたね、自分の恋人とスケジュールがぶつかる日くらい把握しといてくれない?」
ねえ、ひどくない? と秋穂さんが私に同意を求めた。
今日もさらさらの黒髪のボブで、クールな美人さんだ。
「こんにちは秋穂さん。」
「リリーちゃんその耳超可愛い、似合ってる。」
「だろ? ほら。」
「……あとスカートも短すぎる気がするんだけど…」
「何言ってんの、若いんだからどんどん脚出してかないと!」
「ちょうどよかった、秋穂に相談があるんだ。」
「何、プロポーズ?」
「いや仕事の話。」
「なんなのよ、もー。」
秋穂さんは、深夜の彼女で、キーボディストだ。
私の曲でも深夜が引っ張ってきて、よく弾いてくれている。
今日は生番組だけど、クラブサウンドの打ち込みを流してピアノだけ生で弾くスタイルだから、深夜の手だけで事足りている。
「で、あなたは次はギターでサポートなの? あなたが書いた曲よね。売れっ子ねえ。」
「便利なんだよ、僕…」
自分で言って、深夜は苦笑している。
元々スタジオミュージシャンとしてキャリアをスタートしたから、深夜は誰かに曲を書けばサポートで演奏をすることも多いし、書かなくても駆り出されることもある。
ピアノとギターとベースが弾けるから、プレイヤーとしてだけ見ても深夜は確かに便利な人材なんだろう。
本人は作曲とプロデュースに専念したいみたいだけど、私の後ろでは必ず何かしら演奏するから、オファーが来てしまう。
「まあ、今日はいいんだけどね。どうせリリーが出るから、ついでだよ。」
深夜が何気なく言ったら、秋穂さんが呆れたように笑って、私たちにしか聞こえないくらい小さな声で言った。
「このシスコン。」