リリー・ソング

顔を上げたらそこにいたのは、なんというか、「すっごくカッコイイ」としか言えないような男の人だった。
男の人っていうか…年上っぽいけど、でも青年というより少年っぽい感じがした。

「えっと…どこかでお会いしましたっけ?」
「え、あそっか、俺、知らない?」
「………」

知、らない…けど、そう言ったら失礼かも。
この雰囲気は、芸能人であることは間違いない。テレビスタジオの楽屋だし。髪も根元から銀色だし。

「あの、見たこと、あるかも…」
「せっかくだからちょっと話そう。リハ終わった?」
「あ、はい。」
「うん、初めまして。"Glintish"(グリンティッシュ)の朝比奈紺(あさひなこん)といいます。今日はリリーさんの前に歌うよ。」
「あ…よろしくお願いします。」

彼はそのままドアを閉めてスタスタと歩きだした。私は慌てて追いかける。何がせっかくなんだろう?

グリンティッシュの名前は知っていた。今女の子たちに大人気の男性4人組アイドルグループ。彼はその中の一人ってことだ。まばゆいばかりの存在感も頷けた。

「今度の映画、主題歌リリーちゃんの曲使うって、佐藤監督が言ってたから、俺、リリーちゃんの曲は全部聴いたよ。」
「あ…」
「あ、そう。俺が主演。聞いてなかった?」
「はい、すみません。」
「いいけど。ていうか、まだオフレコだったのかな? まあいいや。」

廊下の奥の小さな一角のソファに並んで座った、と思ったら、そうだ俺飲み物買いに来たんだった、と目の前の自販機に向かって立った。

「リリーちゃんは何がいい?」
「あ、いえ、私は…」
「桃のジュースとか好き?」
「え、はい。」
「じゃあこれにしよ。なんか可愛いから似合いそう。」

…いいって言ってるのに。
軽やかな感じがするけど、なんか強引な人っぽかった。というより、自分の思い通りに事を運ぶのが自然な人みたい。


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