リリー・ソング

あれから佐藤宮一監督の映画は、片っ端からDVDを借りてきて観漁った。
独特の世界観と、深夜が作ってきた曲と私の声の相性が良いのは確かだった。

でも、その雰囲気と、桃の缶ジュースを差し出すこの人の印象とはあまりにもかけ離れていて、私は混乱した。
そもそも佐藤監督の映画にアイドルが起用されていたことはなかったはず。

「あの監督ってさ、自分で脚本書くだろ。遅いんだ。まだ上がってきてないんだよ。」
「…そうなんですか。」
「でも、Lilyのbenthosを聴いておけって、そう言われて。このイメージの映画なんだって。ごめんね、俺それまでリリーちゃんのこと知らなかったんだけど。」
「いえ、まだ新人ですし…」

私もこの人のこと知らなかったし。
ちょっと曲が売れてるからって、国民的な歌手になったわけでもない。

「……初めて聴いた時、衝撃受けたっていうか。」

言葉で説明するのが難しいけど、と朝比奈さんは言い淀んだ。

「とにかく、凄いと思って。歌も曲も。佐藤監督がインスピレーション受けるわけだって納得して。繰り返し繰り返し聴いたよ。毎日聴いた。」

…意外と訥々とした話し方をする。
つやつや光る銀髪はやっぱり強烈だけど、少し俯きがちに言葉を探すその横顔は、急に儚く、フォトジェニックになっていた。印象が万華鏡みたいに変わる人だ。

「まあ、でもあれは毎日聴くもんじゃないな。怖い曲だ。聴き過ぎたら気が狂いそうになるね。」
「…そう、かも、しれない…」
「うん。で、調べたら、あれがデビュー曲だっていうだろ。信じられないな、一回話してみたいなって思ってて…」

ふっと朝比奈さんが顔を上げて、悪戯っぽく笑った。

「そしたら、ネコ耳つけて現れた。」
「あっ…」
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