リリー・ソング

やだ、恥ずかしい。すっかり忘れてた。

「なんで、取らなくていいよ、可愛いのに。」
「いえ、あの、抗議したんですけど、これ…」
「へえ? 恥ずかしい衣装なんか、俺今までいくらでも着てきたよ。ネコ耳なんかちょろいけどな。」
「………」

思わずじっと朝比奈さんの顔を見つめてしまった。確かにこの人だったら、コレを頭につけても可愛らしく似合ってしまいそうだ。

「ねえ今、俺にネコ耳似合いそうって思ったでしょ。」
「えっ…」

朝比奈さんが吹き出した。笑顔はすごく瑞々しかった。

「意外と思ってること、顔に出るタイプなんだね。声のイメージと違うな。」

なんか、お互いに意外、と思われやすいみたいだった。
私は人見知りだけど、この人と話すのはあまり緊張しないかも、と思った。

「あの…、benthosは、すごく個人的な曲っていうか。あの頃、私はにとって世界はああいうふうだったから、聴くのも歌うのも…今では難しいんです。」
「へえ。あの頃って、十代でしょ? 生きづらかったんだ。」
「…それで、だから…そういう曲を映画と合わせるのかどうかっていうのはまだ決められてなくて。」
「あ、そうなの? 監督的には決定事項っぽかったけど。」
「あの、でも、もしお断りしても、曲は書くからって、深夜…美山さんが言ってるので、私も歌います。」
「なるほどね。うん…わかったけど、僕の希望としては、やっぱりあれがいいな。なんていうかさ。新しい曲も、美山さんならいい曲を作ってくれるんだろうけど。あの曲はさ…」

私の目をまっすぐに見た。

「あの曲はさ、唯一無二だろ。」

…そう。
それは、そう。
似たような曲は、二度とできない。
あれを書いた時、私はまだLiliyではなかった。

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