リリー・ソング

「俺、猛烈に…悔しいっていうか、負けたくないと思ったっていうか、燃えたっていうか…。映画の最後に、あれが流れて…恥ずかしくない、胸を張れる芝居をするって、もう決めちゃったんだ。」

決めちゃった、って。
やっぱり勝手だと思う反面、朝比奈さんの言うこともわかる気がした。

まだ目に見えないけれど、もう存在することが決まってしまっているものは、ある。
benthosが生まれたことが、そうだったように。私がこれから歌うまだ知らない曲が、きっとそうであるように。

この人にはそれが見えている。

「一緒に傑作にしようよ。」

私を見る瞳が、強い。意志のはっきりしている人だ。
思わず呑み込まれて、はい、と言いそうになった時、

「リリー。探した。」

足音とともに別の声が廊下に響いた。

「あ、深夜。」
「え。」

私より先に朝比奈さんが素早く立ち上がった。

「美山深夜さんですか。」
「え? ああ、はい。」

私の奥から知らない男の人が現れたから、深夜は目を丸くした。

「俺、今度佐藤監督の映画で主演やらせて頂きます、朝比奈紺といいます。よろしくお願いします。」
「ああ、君が…」

丁寧にお辞儀をされて、深夜は笑った。

「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「リリーさんのアルバムもbenthosも全部聴きました。今日はお会い出来て光栄です。」
「今日は、グループで出るんだよね? 僕たちとかち合ったのは偶然?」
「はい。」
「すごいな、そういうことってあるんだね。」
「リリーさんと美山さんのステージ、楽しみにしてます。」
「あはは、お手柔らかに。」

私はネコ耳なんか大したことじゃないと、不思議とそんな気分になっていた。
本番は、もうすぐだ。


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