リリー・ソング
「あの、リリーさん、初めまして。スペースレーベルの大崎と申します。ご挨拶が遅れてすみません。」
「あ、いえ…リリーです。よろしくお願いします。」
若い…なんて私が言うとおかしい。年上の、二十代の男の人が私なんかに深々と頭を下げて、名刺を差し出してきたので、私はぼうっとしながらも慌ててお辞儀をしてそれを受け取った。
「僕、ずっと、ファンで! ライブも行きました。今日はレコーディングを見れて、聴けて、本当に幸せでした!」
「あ、いえ、そんな…」
「ごめんね、リリちゃん。うちの新人、可愛がってあげて。」
「可愛がるなんて、そんな…」
レーベルのこれまた偉い人…名前はなんだっけ…が、苦笑いして話しかけてきて、私はまた慌てて首を振った。
こうやって年上の男の人たちが私のためにこんな狭苦しい部屋にすし詰めになっているのが、いつまで経っても慣れない。ただ失礼のないように頭を下げるくらいしか、私にできることはない。
それから、歌を歌うこと。
私にはそれしかできない。
「じゃあ、僕は帰るね。よければ打ち上げは皆さんで。リリーはどうする?」
「あ、リリーさんはこのあと取材です。僕が送ります。」
「そう、それじゃあよろしく。」
誰も気づかなかったはずだけど、深夜がほっとしているのが私にはわかった。
物腰柔らかに深夜は立ち上がり、すれ違いざまにふわっと屈んで、
「お疲れ」
とだけ言って、出ていった。