リリー・ソング
「…いやあ、アイドルっていうのはやっぱりバイタリティに溢れてますね。ウチはほら、アーティスト気質ばっかりだから…で、何の話でしたっけ?」
「……あの、榎木さん。」
私は息をついた。はい? と榎木さんが目を丸くした。
この人はずっと私を見守ってくれていた。私と、深夜を。
「benthos、映画に使ってもらってください。」
意表をつかれたように榎木さんが黙った。
私は断ると思っていたのかもしれない。
あのCDジャケットにはしっかりとLilyという文字が刻まれているけれど、あれは百合の曲だ。それを榎木さんはよく知っている。
「…いいんですね?」
「はい。あれは、いい曲ですよね?」
私の少し震える声に、榎木さんは笑った。
「僕が知る限り、あんな名曲はどこにもありませんよ。」
「そうですよね。」
ーー海の底で、百合が泣いている。
海の藻屑になれぬなら、声をください。
だけど私は今、歌っている。
ああ、神様。
生きないことは、許されない。
だから私に声を与えたんですよね?
この声を。
深夜が音楽を作り続けるための声を。