リリー・ソング


「昨日、榎木さんがえらい興奮してたよ。ポップなのもどんどん歌わせろって。レコーディングの時より確信があったみたいだけど、心境の変化でもあった?」

翌朝、私が作ったスムージーをなんとか飲み下してから、深夜が言った。栄養重視だから味は良くない。
私は体調を崩すと歌に支障が出るから健康に気を遣っているけれど、深夜は本当に無頓着だから、私が健康管理をしている。

「そういうわけじゃないんだけど、なんかスイッチができたみたいなの。」

一心不乱に餌に顔を突っ込んでいるクリームの頭を撫でながら私は答えた。

「…彼の影響?」
「彼?」

私はとぼけて立ち上がった。
スムージーを飲みきったから、コーヒーをあげないと。

「……朝比奈くん。」

深夜はマグカップを私から受け取り、慎重に言う。

「そうね。そうかもしれない。」

ううん、そうに決まっている。
力強い、黒い大きな瞳を思い出した。
彼は他人に影響を与えやすい人だ。というより、影響力を当たり前に行使する。見た目の格好良さだけじゃない。エネルギーがある。静かなエネルギーを内に秘めて、だけどそれを意識的に爆発させる技術を持っている。

「…アイドルって、凄いのね。」

私は歌えることしか歌ってこなかった。深夜もそのつもりで曲を書いている。

「いいことだな。」
「いいこと?」
「彼は、業界に長く居るし、若い。今回の映画を機に更に名前を上げるんじゃないかな。色々話すといいよ。」
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