リリー・ソング
なんでそんなこと言うんだろう?
望んでもいないことを。
だけど私はさり気なく言う。
「そうね。映画の親睦会に是非来てって言ってた。深夜も一緒に。」
「いいね。行ってきな。」
「…深夜が行かないなら、行かない。」
深夜は黙って微笑んだ。満ち足りた気配を隠して。
「アルバムの方もそろそろ進めよう。今のリリーならアイデアが出てくるんじゃないかな。考えておいて。」
「うん、わかった。」
会話の区切りとともにトースターが焼けるチン、という音が、空気を軽くした。
こんがり焼けたトーストをお皿に置き、サラダと目玉焼きを添えて深夜に渡した。ダイニングテーブルで向かい合って、私も座る。
「ねえそろそろ髪切ったら? 前髪邪魔じゃないの?」
手を伸ばして指先でサラッと前髪に触れたら、深夜はくすぐったそうに笑った。
「確かに最近前が見えづらい。」
「だから煮詰まるのよ。」
「関係ある?」
「ある。心と身体は繋がってるの。」
「それはそうかもしれないけど、今の会話は微妙に噛み合ってないなあ。」
「待ってて。」
小走りでヘアピンとヘアゴムを持ってきて、深夜のさらさらの髪をハーフアップにまとめてあげた。
「どう?」
「確かに少しスッキリする。」
「このままレコーディングに行ってね、プロデューサー。」
「嘘だろ? チンピラみたい。」
「だけど、美山さん今日ちょっと明るいですねって言われるから。」
「僕はいつも別に暗くないよ。」
「自覚ないの? 問題ね。」
「そんなはずないけどなあ…」
他愛のない会話に、クリームがにゃーんと鳴いた。
いつまでもこんな朝が迎えられればいいのにな、と私は思って、深夜と顔を見合わせて笑った。