リリー・ソング
「それ、絶対リリーさんのしわざでしょう。」
榎木さんが深夜を見てウケている。深夜は眉尻を下げて剥き出しの額に触れた。
「姫がこのまま行けってご所望だから、僕は一日恥をかかなきゃいけない。」
「ネコ耳の恨みを晴らされてますね。」
「恨んでないもん、善意よ。」
「アーティストっぽくていいですよ。」
「適当な持ち上げ方だなあ…」
ぼやく深夜をまた笑って、そうだ、と榎木さんが私に顔を向けた。
「例の映画の話。リリーさんもちょっと出ないかって。」
「はい?」
また思いもしなかったことを言われて私はフリーズしてしまった。
「私演技なんてできない。」
「MVはやってるしカメラは問題ないでしょう?」
「無理よ、女優じゃないもの。」
「台詞はなし、ほんのちょっとです。まあカメオ出演みたいなもんです。」
「そんなこと言われても…」
困り果てて深夜を見る。深夜は例によって何も言わない。聞いても、リリーの好きにしたらいいと言うんだろう。
「いや、実は最初からその話は来てたんですよね。でもbenthosの話と併せてしたら、リリーさん絶対まとめて断ると思ったんで。」
「……何それ…」
じゃあ今は断らないと思ってるってこと?
「…ちょっと戦略が過ぎない?」
「一応これでもデキる男で通ってるので。」
「どんな役どころなの?」
深夜が口を挟んだ。よくぞ聞いてくれました、という顔で榎木さんがニヤリとした。
「朝比奈紺の恋人です。」
「重要じゃない!」
思わずあげた悲鳴にクリームが跳ねた。