リリー・ソング
「無理よ!」
「大丈夫です、死んでる役なんで。」
「死んでるって…」
私は頭を抱えた。
それの何が大丈夫なの?
「死に際の演技しろとかはないです。亡き恋人とのありし日のカットを少しと、棺の中の死体カットが欲しいだけらしいので、撮影も一日で終わるみたいですよ。要するにMVと大して変わらないんですよ。」
そんなわけない。映画の現場なんか想像つかない。
「大丈夫ですって。佐藤監督は巨匠ですけど、普通にリリーさんのファンですよ、どう考えても。曲と声と容姿が好きだから職業柄どうしても使いたくなっちゃっただけですよ。」
「……ちょっと考えさせて…」
「考えてどうするんですか、やってみないと何もわからないでしょ。」
榎木さんが私に対しては珍しく、強引に丸め込もうとしてきている。
「ちょっと新しいことやってみたほうがいいですよ。昨日の本番もよかったじゃないですか。刺激が要るんですよ、今のリリーさんには。」
…刺激なんてものは必要ない。
リフレッシュだとか、刺激だとか、榎木さんは最近そんなことばかり言う。
このままで何がいけないの?
「何も女優に転身しろって言ってるわけじゃないんだから、そんなに身構えなくていいですよ。benthosを渡すことにしたんだから、よっぽど何か気持ちが動いたんでしょう。今が好機ですよ。そういうのを逃すと消えますよ、この業界じゃ。」
「…好機って、なんの?」
「それは自分で考えてください。わかってるでしょ、本当は。リリーさん賢いから。」
私は黙り込むしかなくなった。
厳しい。
そして榎木さんはたぶん正しい。