リリー・ソング
「紺、お前いいからちょっとあっちでスタッフと話してこい。俺はこちらのお嬢さんと話したい。」
「わかりましたけど…」
紺が恨めしげに監督を睨んで立ち上がり、言われた通りの方向に歩いていった。
よいしょ、と監督は空いた椅子に腰かける。
「…仲、いいんですね。朝比奈さんと。」
「ん? いや、オーディションぶりだから、会うのは二度目だな。」
「…そうなんですか…オーディション…」
売れっ子でも、そういうのを受けるんだ。
「アイドルには興味なかったんだけどねえ。奴はいいね。実に繊細だ。俺は結局、内向的な若者が好きらしくてね。あいつも社交性の皮を被った羊だろ。それでいて闘志がある。面白いね。」
…紺についてそんなふうに思ったことはなかったけれど、なんとなく腑に落ちた。
「…だからかな。万華鏡みたいな、不思議な人だなって思ってたんです。」
「紺が? なるほどね。リリーちゃんと気が合うと思うよ。」
「私?」
「あなたもただ事じゃない若者だろ?」
「………」
そんなこと言われても返答に困る。
佐藤監督は更に追い打ちをかけてきた。
「じゃなきゃ、あんな曲は歌えないだろう。俺はあなたにもすごく興味があるよ。歌は圧倒的なのに、いつも迷いがある。それに、ひどく孤独だ。何故かな?」
「……あの。」
何故かなって...
どうしよう。
「…答えなきゃだめですか?」
「いやいや。」
目尻が下がって、佐藤監督の鋭い目つきが和らいだ。
「ただ、そういう雰囲気が人を惹きつける魅力でもあるってことさ。俺みたいな人間を引き寄せるしね。」
「…はあ。」
「しかし難儀な人だねえ、あなたも。まあ人はいずれにしろ孤独からは逃れられない。」
「…そうですか? 誰でも?」
「そりゃあそうだとも。」
…誰でも。私も。深夜も?
私はどんな顔をしていたんだろう。佐藤監督がおかしそうに笑った。
「綺麗に撮ってあげるから、手ぶらでおいで。」