リリー・ソング
「生の美山深夜も初めて見たっす…」
ええっと、今名乗ってくれたばかりの、そう、大崎さんがそう言って、ぼーっとした顔で深夜の後ろ姿を見送っている。
「あんな感じなんすね…」
「あんな感じって?」
私はついそう口を滑らせた。深夜が他人の目にどう映っているのか、興味があったから。
「えっ、いや、なんつーか、イメージ通りっていうか、イメージ違いっていうか…」
「なんだそれ」
上司の人がからかうように笑った。
「いや、だって美山深夜っていったら、天才じゃないすか。でもそう考えると天才のイメージってわかんないなって…実際見たらほわ〜っとしてて、肩の力が抜けてるっていうか…ああ、天才ってこんな感じなんだ、へえーみたいな…」
「ああ、美山はほわ〜っとしてるな、確かに。ちょっと足元とか見たら実は3センチくらい浮いてても驚かないよな。」
社長がそんなことを言うから、私は笑ってしまった。
「深夜は、確かに透けそうなくらい、センシティブね。」
「ああ、センシティブなんすか。なるほど。あの独特の感じは、脆さなんですかね。天才故の。なるほど…」
大崎さんが妙に納得した様子で頷き、私を見た。
「そういう感じは、でもリリーさんにもありますよね。触れたら壊れちゃいそうな。ちょっと、美山さんとリリーさんは似た雰囲気ありますね。天才ってそういうもんなのかなあ。」
私は笑って小首を傾げる。
「そんなこと、ないと思うけど…」
深夜と私が似ているのは当然だ。天才だからじゃないし、私は天才でもない。
「まあ、こいつらはいつも一緒にいるからな。似てくるんだろ、自然と。」
事情を知っている榎木さんは黙ったままで、たぶん言葉を一生懸命探していたんだろうけど、社長が無難に話をまとめた。