リリー・ソング


結構お酒を飲まされていたようだけど、紺はあまり酔っ払っているようには見えなかった。
だけど三枝さんの運転してくれている車の中で話していることは、あまり脈絡がなくなってきていたから、きっと見た目よりアルコールは回っている。

「リリーってさ、深夜さんとなんかあんの?」
「なんかって?」

私は未成年だからお酒は飲まないし、酔っ払いようがない。深夜もお酒はほとんど飲まないから、酔っている状態の人に免疫がついていなくて、紺にぶつけられる発言にいちいちびっくりしていた。

「んー、いやなんかさ…さっき、釘刺されちゃって。」
「釘?」
「だから…リリーは僕のものだよって。」
「嘘でしょ?」

何言ってるんだろう、あんな場で。私の見ていないところで。恋人のもとへ向かう前に。

「どういう話の流れで?」
「んー…なんだったかな? 監督も一緒だったから…彼女は素晴らしいみたいな話をしたんだったかな…」
「そこ、はっきりしてくれないと…」
「んん〜…なんか…なんだっけ?」

だめだ。寝そうになっている。

「美山深夜はリリーを溺愛してるって話は有名だから知ってたけど…」
「…有名なの?」
「そりゃそうだよなあ…リリーを見つけてきたのは深夜さんなんだもんなあ…」
「………」

なんとも言えず黙っているうちに、紺は寝息をたて始めた。

「すみませんねえ。気緩んで、ホッとしちゃったんですよ。」

途方に暮れていたら、運転席から三枝さんが声をかけてきた。

「まさか、緊張してたんですか?」
「紺は人見知りですからね。」
「そうは見えませんけど…」
「まあ彼なりに努力してるのでね。」
「はあ…」

私は紺のあどけない寝顔を見て首をかしげてしまう。
銀色の髪に夜景の光が流れて、とても綺麗だった。
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