リリー・ソング
「社交性の皮を被った羊だ、って監督も言ってました。」
ははは、と三枝さんは声をあげて笑った。
「流石に人を見る目が確かですね。」
「私にはあんまりわからないです。でも繊細だっていうのはなんとなく肌でわかります。」
「繊細ですね。今回のオーディションを受ける前も緊張で死にそうになってましたよ。でも彼、ボロボロになりながらも決めるんですよ。いつも。」
「カッコイイですね。」
「アイドルですからねえ。」
しんどい仕事なんだな。
他人から見えるところはキラキラしてるけど、水面下では喘いでいるのかもしれない。
「リリーさんにはシンパシー感じてるみたいなので、仲良くしてあげて下さいね。」
…シンパシー。
benthosをずっと聴いていると気が狂いそうになる、と紺は言った。
私の声のせいだけじゃない。深夜はそういう曲を書いた。
だけど紺も、共鳴しすぎてしまうのかもしれない。そういう人なのかもしれない。
人は孤独からは逃れられない、という佐藤監督の言葉を思い出した。
きっと紺も孤独なんだ。私の孤独に簡単に重なってしまうほどに。
だけど闘っている。ボロボロになりながら、欲しいものを死にものぐるいで掴んで、悩みなんかひとつもないみたいに笑っている。
「すごいな。尊敬します。」
「そうですか?」
三枝さんがさらりと言う。
「だけど貴女も同類でしょう。」
そうなのかな。他人からはそう見えるのかな。
初めて会った時に見た、紺の意志の強い瞳を、私が持っているとは思えない。