リリー・ソング
小さな子が駄々をこねるように言うので、私は思わず笑ってしまった。
「黒髪、似合ってる。制服も。」
「だろ? 俺今、高校生だから。」
「私も。」
「似合うなー、リリーの高校生の頃なんかたまんないだろうな。」
言いながら紺がゆるく巻かれた私の長い髪に指を絡ませた。そうだ、いちゃつかないといけないんだった。
「セーラー服だった?」
「うん。」
「やばいな。俺クラスメイトだったら惚れてたな。」
「でも私モテなかったけど。」
「嘘嘘。気づいてないだけ。」
「ほんとに。ものすごく暗い子だったから。」
「あー、それな。」
普段こんなに顔を寄せ合って人と話すこともないけど、紺とならごく自然にできた。
私からも何かしたほうがいいのかと思って試しに紺の肩に頭を乗せてみた。
「あ、びっくり。」
「え、何が?」
「なんかこれ、すごく気持ちいいかも。」
「ああ、ほんと? もっと、じゃあ。」
紺がその首から鎖骨までのラインのところに私の頭を引き寄せた。そこは私のために作られた枕のようにぴったりとはまった。
「ああ、寝そう…」
「さすがに寝るな。」
紺が吹き出す。
物心ついた頃からこんなふうに誰かに身体を丸ごと預けたことなんてなかった。
...ううん、本当はとても短い間だけ、ある。
全く知らないよりも、二度とできないことのほうが、寂しい。
「あったかい。」
「照明も当たってるしな。」
「うん…」
気づけば後ろからすっぽり包まれるような格好になっていた。
「こういうの慣れてるのね。」
「ラブシーンは相当やった。」
「そうだった。」
「おい、寝るな。」
「寝てない。」
私は思わず笑った。