リリー・ソング
「不思議だよなあ。お互いなんでこんな世界に入っちゃったんだろうな。」
「ほんと。」
でも紺は此処で生き抜くことを決めているのだ。
私は?
私は、ただ。
...ただ、深夜を。
深夜と...
「紺、髪がくすぐったい。」
「あ、ごめん。」
今は考えに耽る時じゃない。はっと我に返って、首筋に触れる紺の前髪の毛先を避けた。
ついでに身じろぎをしたら、紺がさり気なく誘導してくれて、今度は向かい合う形になり、私は正座するような姿勢で紺の両脚の間に収まった。
本当によく整った顔に、私はまじまじと見入ってしまう。
「…まつ毛長いのね。」
「リリーこそ。それ、ほぼすっぴん?」
「うん。」
「恐ろしい子!」
紺がふざけて言って私を笑わせる。身体が揺れたせいでぐらついた。
「おっと。」
ソファから落ちかけた私の腰を紺が支えてくれた。
「なんか懐かしいな。リリーがネコ耳つけて現れたのがずいぶん昔のことみたいだ。」
狭い座面に無理やり二人で入り込んでいる不安定な体勢に耐えきれず、紺の背がソファをずるずると滑ってほとんど寝そべるような格好になっていくので、私たちはくすくす笑ってしまう。
「"クリーム"ってさ、実在する猫?」
「うん。うちで飼ってるの。」
私がもっと身を寄せてスペースを節約したら、雪崩がおさまって落ち着いた。
「やっぱり。白いんだ?」
「うん。可愛くて可愛くて。」
「いいなあ。俺も飼いたいなあ。」
「飼えばいいじゃない。」
「でもなあ…」