リリー・ソング
「そうですよね。リリーさんの曲は全部美山さんが作ってるんですもんね。」
大崎さんは無邪気に頷いている。
「そ、アレンジまで全部、レコーディングも全部あいつのディレクション。あの過保護ぶりにも困ったもんだよ、他にも仕事は山ほど溜まってるのに。絶対全部自分でやるんだよ。」
「リリーさんは他の人の曲を歌いたいと思ったりはしないんですか? そりゃ、いつも名曲だから不満なんてないだろうけど、デビューからずっとですよね。」
そういうことは、最近よく言われる。
オファーが来たこともある。
だけど私の返事は決まっている。
「私は、深夜のものだから。」
深夜がして欲しいことしか、私はしない。
微笑むと、大崎さんはなぜか顔を赤らめた。
「そ、そんな綺麗な笑顔でそんなこと言われると、意味深なんすけど…」
「まったくだなあ。」
社長がわざとらしくため息をついた。
「榎木、妙な噂がたたないように、こいつら、きっちり管理するんだぞ。」
「はい。肝に命じます。」
榎木さんはピンッと背筋を伸ばし、サラリーマン然として従順な返事をした。
敏腕マネージャーと呼ばれているこの人は、年下の私にも深夜にも、いつも折り目正しいけれど、社長にはもちろんそれ以上に礼儀を尽くしている。
その様子を間近で見ていると、大人のストレスというものを知らされるような気がする。