リリー・ソング
『やっと見つけた。百合?』
私は自分に兄がいることなんて知らなかった。
男に捨てられ、また私を捨てた母は、私に何も教えないまま消えてしまった。
だけど深夜がたくさんの子どもの中から迷わず私を選び出してくれたように、私も疑うことはなかった。
目の色、髪の色、肌の色…
『迎えに来たよ。』
…それから埋めようのない空白を抱えて海底に沈んでいる。
私たちはあまりにも同じだった。
『百合。待たせてごめん。もう寂しくないよ。』
だから、私もこの人を絶対に寂しくさせたりしない、と思いながらその手を取った時、どうしようもなく泣いた。
「…もうあれから3年か。」
深夜がぽつりと呟いた。
3年。
何もかもが変わった。
私は歌手になり、深夜は遥かに有名になった。そうして歯車は動いている。
「…考えてみるよ。」
「私も、深夜が使ってない時、部屋使わせてもらうね。」
「もちろん。」
今や私は作曲の真似事までする。
断片を作れば、深夜が魔法みたいに素晴らしい曲に仕上げてくれる。
ギターもピアノも少しなら弾ける。
あの頃と同じではない。歯車は一箇所に留まれない。
「ねえ、深夜…あのね、大丈夫よ。」
何が? と深夜は聞かない。
私も言わない。
空になったマグカップをじっと見つめて、深夜は考え込んでいる。その頭のなかで、今どんな音楽が生まれようとしているのだろう。
深夜がどんなに、その稀有な才能を行使して、抵抗しても。
いつまでも夜に身を浸していることは、たぶん不可能だ。