リリー・ソング

私が温めたミルクを飲んだ後、深夜はただ寝不足なだけだ、と笑って、自分の寝室に消えた。
お願いだから眠って、と私が懇願しなければ、まだ続けるつもりだったのかもしれない。

私はクリームを抱えて仕事部屋に入った。
大事な機材がたくさんあるから、本当はこの部屋にクリームは出入り禁止なのだけど、とても一人では入れなかった。

「おとなしくしててね。」

言われるまでもなく、クリームは私の腕の中でじっとしている。何か感じているのかもしれない。

息詰まるような、凄惨な戦場の後だった。
無数の散らばった五線紙のどれもが破れているか、斜線が引かれているかで、デスクに転がった鉛筆が無残に折れている。ペン立ては倒れてペンが溢れ無秩序にバラまかれて、スピーカーの一つは横倒しになっていた。

床に降ろしてもクリームは動かず私の顔を伺っている。

私は唇を噛み締めて、一枚一枚五線紙を拾い上げた。
目を走らせると、終止線が引かれたものなんか一枚もなくて、全部が欠片だった。バラバラになった深夜の心そのものに見えた。どれも間違いなく綺麗なのに、深夜はゴミだと言うのだろう。こうして私が揃えて置いておいても、そのまま捨ててしまうんだろう。
スピーカーを立て、ペンを集めてペン立てに戻して、椅子を元の位置に引っ張ってきた。

全部元通りにしても、何も片付いた気がしなかった。

「クリーム…」

にゃーん、とクリームが気遣わしげに返事をした。

私は椅子に座って真っ暗なパソコンの画面を見つめる。
深夜は毎日、ずっとここにこうして座っているのだ。

「私のせいだよね。私が…」

薄氷の上を歩くような危うい夜の日々を、私のせいで深夜は壊さなければならなくなって、できない、と言ったんだ。
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