リリー・ソング

クリームが私の膝に跳び乗って、丸まった。
その背中を撫でながら、私は長い間そこに座っていた。

こんなのはノスタルジーだ。
もっと、前に進む、そういう曲を…

深夜の掠れた声が頭から離れない。
ノスタルジー。
過去のこと。
もう3年前か、懐かしいな、と深夜は笑った。たった3年前。だけどもう二度と手の届かない、完璧に幸せな、あの短い時間。
私たちはその想い出だけを大切に大切に共有して生きている。壊さないように。

「ああ、そうだ…榎木さんに連絡しないと、ダメだよね。」

私はふと呟いて、ポケットの携帯を取り出した。

「なんて言う、クリーム? 深夜は…深夜はもう書けないかもしれないって?」

だけどとにかく、せめて明日一日くらいは休ませたい。倒れたことを知らせなくちゃ。
榎木さんの番号を出そうとした時、ディスプレイが光った。着信だった。

"朝比奈紺"

ああ、紺に会いたい、と心の底から思った。名前を見て、また泣きそうになって、飛びつくようにして出た。

「もしもし?」
「あ、出た。元気?」
「元気よ。どうしたの?」
「うん。ちょっと、声が聞きたくなって。」

いつものように朗らかな声音だった。

「北海道はすごく寒いでしょ。雪降ってる?」
「うん、時々降るよ。」
「撮影は順調?」
「うん…」

不意に声が途切れた。電話越しの息づかいが、急に弱々しくなった気がした。

「…リリー、今、家?」
「うん。」
「ちょっと、出てこられる?」
「え?」

膝の上のクリームがぴくっと震えた。

「だって…紺、今、どこにいるの?」
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