リリー・ソング
ふーん、へえーとしきりに感心する大崎さんから、榎木さんがさり気なく私を遠ざけて、リリーさんそろそろ、と言った。
「あ、はい。お疲れ様でした、ありがとうございました。」
私はドアの前で深々と頭を下げた。
口々にお疲れ様、と返してくれる大人の人たちは揃って満足そうな顔をしていたので、私はああよかったな、と思う。
よかったな、私はちゃんと歌えたんだ。
今度の曲も売れるといいな。
それはそのまま、深夜の実績になるから。
「本当、よかったですよ、リリーさん。」
移動する車の中で、榎木さんが念を押すように言った。
私がいまいちよくわかっていないのを敏感に察したんだろう。
「…だと、いいけど。」
「クラブ系も結構いけるんじゃないすか。リリーさん、リズム感も武器ですよ。」
「うん…」
「ポップな感じものどんどん歌えばいいんじゃないかな。深夜さんに言ってみよう。」
独り言みたいに榎木さんが呟いている。私はそんなことよりも、と控えめに散々口にしたことをまた言ってみる。
「…そろそろ、敬語やめない? 榎木さん。」
「いや、それはちょっと。」
予想通り即答された。何度もしてきたやり取り。
「…リリーさんは深夜さんからの大事な預かりものなので。」
「それはわかるけど…」
初めて榎木さんに会った時、私は16歳だった。
あの頃は、子どもだった。おじさんこんにちは、と最初に馴れ馴れしい口をきいたのは、私の方だ。
「今はもう、あの頃の私がどれだけ非常識だったか、わかってるつもりなの。」
「いえ、そういうことでなく。」
運転席からバックミラー越しに目を合わせて、榎木さんは優しく微笑んだ。