リリー・ソング

紺はうちからすぐ近くの公園の名前を口にした。

「親睦会の日、三枝がリリーを送った後目が覚めて、通りかかったのを見たから…ごめん、急に。」
「いいけど…」

クリームを片手で降ろして、私は部屋を飛び出し玄関に走った。

「どうしてそんなところ…」

靴を履いてドアを押そうとしたら、手が届く前に勝手に開いた。一人なの? と言った私の声が、廊下に流れて響いた。

「深夜?」

勢い余ってぶつかった。
なんで深夜が外から帰ってくるの? 寝ていたはずじゃないの?

「紺、とにかく行くから、待ってて。」

私はそう言って電話を切った。

「…ただいま。」
「ただいまじゃない、寝てなきゃダメじゃない、どこに行ってたの?」

私が強い口調で責めると、深夜は困ったように笑った。

「うん。ちょっと散歩。でかけるの?」
「うん、すぐ帰ってくると思うけど…」

すれ違おうとすると、待って、と深夜が呼び止めた。

「外は寒いよ、さすがに夜は冷える。そんな薄着じゃ風邪ひく。」

そう言って、羽織っていたモッズコートをワンピース一枚しか着ていない私の肩にかけた。

「もう、深夜は私じゃなくて自分の心配をしてよ。」

私は文句を言いながら、それに腕を通した。深夜の体温が残っていて、暖かかった。ふふっと深夜は短く笑いを漏らして屈むと、ファスナーまで締め始めた。

「それ難しいな。僕にはいつもリリーが一番だよ。」
「知ってるけど。」

知っている、そんなことは。わざわざ言わなくても。
首元まできっちりファスナーを上げ終わった手を、深夜がそれからどうしようかと迷うように下げそこねていた。

「リリー、僕は…」
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