リリー・ソング

「落ち着いた?」
「うん、ごめん。」
「謝らなくていいの。私も会いたかったから。」

一回きつく目を閉じて、紺はその上を片手で覆った。

「俺、最終の便で戻らないと。」
「うん。頑張って。」
「ありがとう、リリー。」
「紺。」

私は紺の手を掴んで、顔をまっすぐに見上げた。

「紺はいつもボロボロになりながらも、決めるんでしょ。できるよ。」

私の眼差しを受け止めて、紺がゆっくりと頷いた。

「紺は、できる。」

私の、この声が。
どうか紺の心を守ってくれますように。

「できるよ。」
「うん。」

紺が微かに笑って、ありがとう、とまた言った。

「このへんでタクシー拾いやすいところある?」
「そこの大通りに出ればすぐ捕まる。」
「わかった。ごめん、送れないけど。」
「いいから、急いで。」

つかの間握りあっていたお互いの手が、冬の空気に放たれた。
紺が公園を出て、走り出した。

「頑張って!」

その背中が大通りへ向かう角を曲がって見えなくなる前に、私はもう一度、大きな声でそう言った。

頑張って。
できるよ。

深夜にかけられない言葉を、紺にはこんなに簡単に言える。
紺がたくさんの人に愛されて、求められて、活躍している理由がはっきりとわかる。

紺は進む。進み続ける。人は進まなければならないのだと、私たちに思い知らせる。
その姿が羨ましくて、眩しい。

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