リリー・ソング
私たちの傍観者に戻った秋穂さんの笑顔は清々しい。
「宿命よ。受け入れなさい。誰もあなたが歌わないことは許さない。深夜が音楽を作り続けなけきゃいけないように。」
それが、歯車。
私たちは、音楽を生み続けなければならない。私たちには、それしかない。深夜もわかっている。だから苦しんでいる。だけど、止めることはできない。
「…はい。」
「私は、もっと楽で扱いやすい男を探すわ。あなたはせいぜい、自分の才能に苦しんで、頑張りなさい。」
頑張れ、と、私は紺に言った。
それと同じように秋穂さんが言う。
頑張れ。その手にあるものを、全て使って。
「…秋穂さんも、頑張ってください。」
「私はいつも頑張ってるのよ。あなたが知らないだけ。」
「はい。すみません。」
「あらやだ素直。何この可愛い生き物? お姉さんになってあげられたらよかったのにね。」
それを聞いて泣きそうになった。
私が、こんな声を持っていなかったら。
深夜が、私を愛してしまわなかったら。
私たちがごくありふれた兄妹として生きていられたら。
この人と深夜が結婚して、この人がお姉さんになって。
それは夢見ずにはいられない、幸せな未来だった。
深夜もきっとそれを願った。
だけど秋穂さんは自分の道に戻る。
私も深夜もそれを止めない。
「どうしようもないことってあるのよ。だけど、私は今日もあなたの後ろで弾くから、とりあえず歌いなさい。明日のことは明日考えればいいの。」
「はい。」
私はこくんと頷く。
頑張るって、どういうことなんだろう。
私は、今やるべきことをやることしかできない。
今日も私は弾けるような笑顔を作って、"クリーム"を歌う。