リリー・ソング
「まず説明してもらえますか。」
そう言って榎木さんがテーブルに置いたのは、週刊誌のゲラだった。見開き2ページ。
「………」
深夜も居ることを確認すると、電話を切った後、榎木さんはすぐうちに来た。
"Glintish 朝比奈紺、熱愛発覚?! お相手は歌姫Lily"
そのデカデカとした見出しを見て、私は思わずため息をついた。
「誤解よ。」
「わかってますけど、この写真はなんですか?」
深夜は黙っている。
ほとんど半ページを使って載せられていたのは、抱き合った私と紺の写真だった。顔のパーツまではっきりと見て取れるわけではないけれど、まず疑いようのないことは私にもわかった。
紺が北海道から脱走して、公園で会った時だ。これは言い逃れできない。
「…紺が、撮影でどうしてもうまくいかなくて、こっちに戻ってきたことがあったの。ちょっと会ってすぐ北海道に戻った。時間にしたら、たぶん10分にもならないと思う。」
「………」
榎木さんが大きなため息をついた。
「…なんて迂闊な……」
「…ごめんなさい。」
謝るしかない。榎木さんは真面目に仕事をしていただけなのに、尻拭いに奔走させられることになってしまったのだ。
「これ、そこの公園でしょう。リリーさん張られてたんですよ。家がバレてます。深夜さんと同居してることまでは知られていないでしょうから、とりあえず深夜さんはなるべく外に出ないで、出る時はくれぐれも注意して下さい。」
「まあ、僕はまだしばらく家から出られないから、心配ないね。」
深夜がこともなげに頷いた。