リリー・ソング
「私のほうこそ紺に会わなければ、いまだにずっと、同じところに居続けようともがいていたかもしれない。でもそれじゃ駄目なのよね。私は新しい歌を歌わなくちゃいけないし、進まなくちゃいけない。そういうの、紺を見ていて気づいたの。ありがとう。」
少し照れたように紺が笑った。やっぱり瑞々しい笑顔だ、と私は思った。
「新しい歌か。俺、またそれ聴いて打ちのめされるのかな。嫌だなあ。」
冗談でもなさそうな顔のしかめ方をして、紺はため息混じりに言った。
「紺だって、歌上手じゃない。Glintishのステージ、本当に格好よかった。」
「うん。まあ、そうだね。リリーがどんなにものすごい歌を歌っても、俺にはメンバーがいるから、俺はめげずにまた歌えると思うな。」
孤独でも、一人じゃない。
紺が強い理由が、少しだけわかった気がした。
「そのうち、他のメンバーの人にも会わせてね。」
「もちろん。コンサートにも来てよ。」
「うん、行きたい。」
「俺、羨ましがられてるんだ。リリーと共演して、仲良くなって。みんなリリーのファンだから。」
「そうなの?」
「初めて楽屋で俺がリリーのファーストアルバムを大音量でかけて、みんな度肝抜かれてた。」
紺が思い出し笑いをした。三枝さんも笑っている。
「あの時のみんなの顔は見ものでしたねえ。急にサボってたボイトレに通いだしたメンバーもいましたし。やっぱりみんな負けず嫌いだし、同年代のすごい人には刺激を受けるものなんですね。」
「あと、いつか美山深夜に曲書いてもらいたいって話にもなったな。」
「もっと水準上げないと、あの人は書いてくれないんじゃないですか。」
三枝さんが嫌みっぽく言った。そうかな。