リリー・ソング
トワイライト
初動が大事だ、と三枝さんが言った意味が、よくわかった。
週刊誌に記事が載った日の朝は大騒ぎだった。まさか自分の名前や歌っている姿をニュースやワイドショーで見る日が来るとは夢にも思っていなかった。
改めて、紺は売れっ子の芸能人なんだ、と知った。
すぐに紺の事務所からのFAXが公開された。よく見る、当たり障りの無い、いくらでも勘ぐられそうなお友達宣言だった。
それを待ってから、今度は私が書いたFAXを事務所から流した。
仕事を通じて出会い、同年代で意気投合し仲良くしていること、だけどお付き合いは断じてしていないこと、あの写真を撮られた時は久しぶりの再会で、お互いどれだけ忙しくしているのかよく知っていたので労い合う意味を込めてハグをしただけということ。
"朝比奈さん並びにGlintishの皆さんのご活躍を、私も一人のファンとして皆様と一緒に楽しみに、また応援しております。Lily"
と、結んだ。
手書きでかなり個人的な内容に踏み込んだ文章になったぶん、疑う余地はないと世間は判断して、むしろ好意的だった。
「誠実な対応だとリリーさんのマスコミ受けも良くて、まあなんというか、被害は最小限に抑えられたといいますか…」
榎木さんはそう言って本当にほっとしていた。記事掲載日からものの2日しか経っていなかった。
「なんだ。よく見る、家の前にマスコミが殺到してフラッシュを浴びてとかの事態になったら、正面玄関から出て、誤解です、良いお友達です、ってウインクでもしようと思ったのに。」
冗談でなく真顔で言ったのがいけなかったみたいで、榎木さんがヒィッと震え上がっていた。
「リリーさんキャラ変わってますよ。逞しいですよ…」
「そう?」
そんなつもりはないけど、私にはこんなスキャンダルは大したことではない。