リリー・ソング
ごめん、ごめん、と何度も謝って。
「…こんなつもりじゃなかったんだ。僕は…」
後悔とも葛藤ともつかぬ苦しみを滲ませた声で、深夜が。
「…16年間。」
その年月を、口にした。
どこかへ消えた母親と、死んでしまった父親に切り離されてしまった、永い永い年月を。
「16年間、僕はずっときみのことを考えてたよ。たった一人の妹のことを、離れていても、あの子はずっと僕を待っているんだって、あの時置き去りにしてきてしまったあの赤ん坊が泣いて僕を呼ぶ声が、どこに居ても、何をしていても、聞こえてくるみたいだった。いつか探し出して一緒に暮らそう、それで明るい部屋と、明るい将来を用意して、幸せにするんだって、それだけが生きている理由だった。」
懺悔するように言うことじゃない。今ならわかる。私だってずっと深夜を待っていたんだ。
「深夜は見つけてくれた。」
「そう、…見つけた。ついにたった一人の家族を見つけた。だけど、僕は…」
続けようとした私とそっくりな形の唇がわなないた。深夜は目を閉じた。
まぶたの裏にきっと、ノスタルジーを映して。
「…きみの歌を初めて聴いたとき、震えが走ったよ。ただただ、きみの声で僕の曲を歌わせようと、つまりきみの声を手に入れたんだと思ってしまったんだ。愚かだった。僕の心は全くの無防備だったよ。何も気づいてなかったんだ。音楽のことしか考えていなかった。」
深夜は口元に自嘲の笑みを浮かべた。
「もし初めから気づいていたらと思うこともあるけど、結果は同じだっただろうな。僕はきみを歌わせたいという欲望に逆らえなかっただろうし、きみはいずれ必ず歌うことになる。」