リリー・ソング
もし、深夜が私を歌わせなかったとしても、いつか私は歌う。それは確かにそうだろうと思った。だけど、深夜の曲があったから、あの時私は歌うことができたのに。
それだって紛れもない真実のはずなのに。
「きみの声はきみのもので、僕の音楽のためにあるわけじゃない。きみが広い世界へ羽ばたいていくための翼だとわかっているのに、僕はきみが自由に飛ぶことを望んであげられなかった。ちょっとしたきっかけで…例えば誰かと出会ったり、新しい経験をしたり、他の誰かの曲を歌ったり…そんな当たり前のことで、いつかきみが外に出て僕から離れていくことがいつも怖かったよ。」
初めから気がついていたら、と、私は深夜が言った言葉をそのまま思う。
リリーは僕のものだよ、と笑って言う深夜の苦しみに。
初めから、私が気がついていたら。
「結局、僕はあるゆる意味できみを手放せなくなって、あんなに幸せにしたいと思っていたはずなのに、ほど遠いところにきみを閉じ込めてしまった。」
だけどそれは深夜だけのせいじゃない。
私は深夜に閉じ込められたわけじゃない。
「だけどきみはいつも僕のものでいてくれた。そんなことはおかしいんだ。わかっているのに、甘えていた。僕にはきみを閉じ込める権利なんてないし、きみは僕の我儘に付き合う義務なんてないのに、僕がきみを探し出したから、...その一点だけで、きみは僕の望みを叶えてくれていたんだ。僕は…本当に卑怯だけど、…幸せだった。」
違う、違う、違う。
私は叫び出しそうになる。
何もかも、深夜のせいなんかじゃない。
私だって幸せだった。ずっと続けたいと思った。
たとえそこが海の底でも、夜でも、夜明けを怖れないわけにはいかなくても。