リリー・ソング
「きみの声を失ったらもう僕は音楽を続けられないかもしれないし、きみが居なくなったら生きていけないかもしれない。きみはそう思っているんだろ。僕もそう思うよ。だけどどんな破滅が待っていたとしたって、僕から離れたいときみが思ったら、僕はそれを受け入れなきゃいけない。当たり前だろ。きみはやっと海の藻屑になりたいなんて夢見ることを忘れたはずだったのに、僕のせいで酷い時間を強いられてしまった。永過ぎたくらいだよ。僕ばかりが幸せな時間だった。きみはもういい加減僕から逃げるべきだ。僕はもう…」
何度も何度も声を途切らせて、何度も何度も波音だけが耳を蝕む気の狂いそうな沈黙を挟んで、本当に長い時間をかけて続いた深夜の話が、遂に終わった。
「もう、...充分だ。」
終わってしまった。
私たちの歯車が何一つ噛み合わないまま。
「…一体…何が充分なの? 勝手なこと言わないで。」
月はすっかり傾いていた。
思っていたよりもずっと、夜は短い。
「深夜が…私を、愛してくれるなら、私は幸せなの。本当よ。信じて。」
深夜が何を言っても、私の言うことを信じてくれなくても。
何度でも言うと決めた。
「…きみを信じなかったことなんか、一度もないよ。だけど…」
「だけど、だけど、だけど。深夜はそればっかり。だけどなんか無いの。深夜は私を愛していて、私も深夜を愛してる。在るのはそれだけのことなの。簡単なこと。愛し合って生きていけばいいじゃない。」
「きみはまだ若すぎる。まだわかってないんだよ。そんなにシンプルじゃないんだ。犠牲も負担も多すぎる。」
「じゃあ深夜はどうなの? 深夜が言ってるのは、私のことばっかりよ。私にだって深夜の人生のことを考える権利くらいあるでしょ。私が深夜を一人にしないと思うことを、深夜が禁止する権利なんかどこにあるの?」