リリー・ソング
今更、保護者ぶらないで。ちゃんと私を見て。
「深夜が私を苦しめてしまったと思うなら、ただ一言言ってくれればいい。」
それは私たちが守ってきた夜を、かりそめの幸せを、壊してしまう呪いの言葉だと深夜は怖れているけれど。
本当は、夜は明ける。私たちの夜は。
私はそれに賭ける。
「ねえ、深夜。」
私は深夜の手を取った。本当に久しぶりに触れた手は、冷たくなって、氷のようだった。
それを両手で包んで温める。私の手だって冷えきっていたけれど。
一人きりで凍えるより、ずっといい。
「しかたないじゃない。本当に私たちが離れて生きていけると、本気で思ってるの?」
深夜は私の手を振り払わなかった。たぶん、できなかった。閉じたまぶたを震わせて、涙を一筋零した。
それから、やっと...本当にやっと、言った。
愛してるよ、と。
消え入りそうな声で。
「……きみを愛してるよ。もうずっと。他の誰のことも愛せないんだ。どうしたらいいかわからない。きみが欲しいけど、きみに罪を背負わせたいわけじゃない。陽のあたる明るいところで笑って生きてほしいのも本当なんだ。」
「私が陽のあたるところで笑って生きるのと、深夜と愛し合って生きるのは、相反することじゃない。同じことなの。」
「…違う……」
「違わない。」
深夜が、嗚咽を漏らして。
痩せた背中を丸めて。
耐えきれずに、泣いている。
そんなふうに泣かなくたっていいの。
私のために費やした長い年月を、悔やまないで。
「ねえ。深夜は私を愛すことを怖がらなくたっていいし、私と私の声を無理やり分けて考えようとする必要もない。リリーも百合も、何もかも深夜のものよ。ねえ、それじゃあ深夜は幸せになれないの?」