リリー・ソング
私たちは音楽だけに頼って身を寄せ合ってきたけれど。
夜にしか居場所が無いと思ってきたけれど。
二人で居たら海の底に沈んでしまうと、深夜は思い込んでいるけれど。
「私は深夜に抱きしめてほしいし、キスしてほしい。そうやって生きていきたいの。夜明けが来るなら、一緒に迎えるの。前に進むなら、それは私だけじゃない。深夜も一緒よ。それじゃ駄目?」
「……そんな…そんな、ことは…」
「やってみなくちゃわからないじゃない。どっちにしろ私たちは家族なのよ。一緒にいても離れても、キスしてもしなくても、幸せでも不幸せでも、家族なのよ。それなら私は一緒に幸せになりたい。」
頑張りなさい、と秋穂さんが言った。
頑張れ、と紺が言った。
私は言葉を尽くす。
今度は私が、深夜を海の底から引き上げるんだ。
「深夜、私を信じて、愛して。私が願うのはそれだけ。」
空が薄明るくなってきて。
深夜が迷っている間に、水平線に朝陽が浮かび始めた。
「好きよ、深夜、愛してるの。」
涙に濡れた深夜の頬が、かすかな朝陽にきらめいた。
「ねえ、ほら…朝陽よ。綺麗ね。」
最後には結局自然現象に頼るなんて、情けない話だけど。
私はゆっくりと昇り続ける太陽に祈る。
深夜の心を照らしてください。
私を愛しても希望があると、信じさせてください。
前に進もうと、思わせてください。
私と一緒に。
海の底から…
やがて朝がすっかり満ちる頃、深夜がぽつりと言った。
「……絶対いつか、後悔するよ。」
「しない。」
私の即答に、深夜が泣きながら笑った。
深夜が泣いているから、私は泣かない、と歯を食いしばった。
ねえ、紺。
私、今、ちゃんと頑張れてるよね。
「私ね。ラブソングを歌いたいの。作ってくれる?」
「……こんな、朝焼けみたいな?」
「うん。こんな。」
深夜は笑った。幸せそうに、切なそうに、嬉しそうに、苦しそうに、眩しそうに。
「綺麗だろうな。きみが歌ったら、こんな…」