リリー・ソング
もし私たちが離れ離れになってしまわなかったら。
もし私たちが兄妹じゃなかったら。
もし私たちが愛し合ってしまわなかったら。
もし私がこんな声を持っていなかったら。
もし……
私たちは、もし、ばかり考える。
だけどどうしようもないのだ。全部抱えて、進む。
「深夜、キスして。」
「え?」
深夜が躊躇って、涙のひいた両眼を泳がせた。
「深夜がぐずぐずしてるから、紺にファーストキスを奪われちゃった。」
「……あれは、気が狂うかと思ったな。」
深夜が初めて、私に手を伸ばして。
そっと優しく首の後ろを引き寄せると、控えめに唇を重ねた。
「…もう。ちゃんと覚悟決めてよ。」
私は苛立って、深夜の胸を叩いて、思い切り唇を押しつけた。
初めは戸惑っていた深夜は諦めたように私を受け入れて。
私たちはいつしか、深い深いキスに溺れた。
「…大好きよ。私が幸せにしてあげる。」
「…参ったな…」
深夜がくしゃっと、また泣きそうに顔を歪めた。
「僕はもう考えられないくらい幸せだよ。」
「じゃあ私を幸せにしてよ。」
「…僕にはさっぱりわからない。どうすればいい?」
「愛してるって言って。それから百合って呼んで。」
深夜は私が言ったらなんでもする。
まずいスムージーを飲むことだって、クリームみたいな曲を作ることだって、髪を結んだまま仕事に行くことだって、寝不足で車を運転して海に行くことだって。
「…愛してる、百合。」
「もう一回キスして。」
きっと、一緒に進むことだって、夜明けみたいなラブソングを作ることだって、私を信じることだって。
困ったように笑って、暁の空の下で、深夜はもう一度私の唇に、深く唇を重ねた。