ばくだん凛ちゃん
元旦の日勤も終え、無事に家に帰ることが出来たのは1月1日、午後6時過ぎ。

「ただいま」

家のドアを開けると真っ暗だった。

僕は玄関の明かりを付け、リビングに向かう。
静まり返る部屋。
少しだけ、淡い期待を抱いていたがそれは見事に消えてなくなった。

ハルがここに凛と一緒にいて、僕を見つめて

「おかえり」

っていう声を掛けて欲しかったな、なんて。
…我儘だよね。

大きくため息をついて服を脱いだ。

何だか、僕まで鬱になりそうだ。

服を着替えて1階に下りる。

「ただいま」

今日、2回目の『ただいま』

1階の両親の家の玄関を開けると

「「「おかえりー!!」」」

賑やかな声も聞こえる。

「…おかえり、透」

明らかに疲れ切ったハルが出迎えてくれた。

「ただいま」

僕は肩をすくめながら微笑んで、ハルの額にキスをした。
その腕にはタオルに包まれた凛。
僕が手を差し出すとハルは恐る恐る僕の腕へ凛を移した。

「ただいま、凛」

凛はしっかりと目を開けてこちらを見ていた。
そしていきなり、口から溢乳。
ハルはあたふたするが、僕はハルの手からガーゼを取りそっと拭く。

「大丈夫だよ、ハル。
何も問題ないから慌てる必要なんでないよ」

普通に考えたらきっと何事のなかったようにハルも過ごせるのだろう。

だが。

極度の寝不足で、ぼんやりした頭では目の前にある事をこなすだけでも大変だ。

「しばらく抱っこしておくから」

きっと、退院してからまともにご飯なんて食べていないんだろうな。
いくら父さん、母さんが見てくれると言っても、ゆっくりのんびり食べられるくらいの心境なんて持ち合わせていないはず。

「でも、それじゃあ透が」

僕は真っ直ぐハルを見つめて

「僕は後からでいいから。
僕にまで遠慮していたらハルはつぶれてしまうよ」

ハルの悪い癖だよ。
僕の事を自分よりも先に考えすぎ。
あまり考えないのも困りものだけれど、考えすぎも困る。

僕は凛を抱っこしたままリビングに入っていった。
< 10 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop