ばくだん凛ちゃん
「ハルさん」

透が私を『さん』付けで呼ぶのは照れている時。

「僕に不意討ちを食らわせるのが上手だよね」

「私は本心を言ったまでよ」

透は苦笑いをしながら頭を左右に振った。

「普段は滅多に自分の胸の内を言わないのにね。
そういうハルに僕は心を揺さぶられるんだ」

透は視線をぐっすり眠っている凛に向ける。

「凛には特別な勉強は必要ない。
完璧にテストをこなしたとしても、人間として必要なものが欠けていたらダメだよ。
高石という家がそんな事を求めても、僕が阻止する。
…言って悪いけれど、ああいう勉強に関しては兄弟、イトコのうちで一番出来たのは塾にも通っていない僕だよ」

塾も拒否。
私立中学も拒否。
高校は私立でも進学校でもない、ごく平均的な高校。
ただ、あの高校は芸術やスポーツが飛び抜けていた気がする。
私立なのに自由度も高く、だから私はお母さんに無理を言って行かせてもらった。
透はもっと変わった理由で受験しているけどね。

「凛が僕に似たら絵を描くのが好きだろうし、ひょっとしたらバイクに乗るかも。
それが凛の仕事に結びつかなくても、一生の趣味になれば生きていく上で幸せだと思うよ」

そうか…。
透って色々趣味があるけれど今は仕事で精一杯。
ただ、ふとした瞬間に息抜き出来る趣味があるから追い詰められてもバランスが取れているのだろうね。

「勉強は最低限出来たら良いと思ってる。
だからハルにお願いしたいのは、勉強や家の体裁なんてどうでもいいから凛には人と触れ合うチャンスを与えて欲しいんだ」

透は穏やかに微笑んでいた。
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