ばくだん凛ちゃん
翌日からすぐに生駒医院に勤務した。

「透、来るの早いよ」

兄さんのクレームに僕は思わず苦笑い。
慣れというのは怖い。
紺野総合の小児科では早く着いて色々と自分でチェックして、というのが当たり前だった。

「朝のミーティングできちんと挨拶してもらうよ。
今までは夕診だけだから小児科だけの人間しか知らないだろうけど。
ここは内科の方がスタッフも多いからな。
そうそう、明日から正式に来るハルちゃんや凛ちゃんの事も一応お前から言っとけよ」

明日から二人も来る。
初めて凛を保育園に預けるけれど大丈夫なんだろうか。
それが心配だ。

それと凛は風邪をひきまくる。
ここに来たり、保育園へ行くと仕方のない話だか。
まあ、その分、3歳を過ぎたら病気には強くなっているはずだが。



朝の挨拶を終えるとそのまま小児科の診察室に入った。
朝は3診制。
これも来春から始まる病児保育に向けてのシステム作りだとか。
朝は医師も指名制になる。
もちろん、指名なしで時間だけの予約の人は手隙の医師が診察する。
夕診は僕一人なので時間の予約だけ。
予約システムも出来るだけ患者の負担を減らしたい思いで、だ。
もし、予約が多くて診察時間内の枠がいっぱいになれば自動的にその後の時間にも予約が入れられるようになっている。
初日なので午前診は少ないだろうと思っていたら甘かった。
4月から夕診だけは入っていたのである程度は患者とその保護者の方に知られていたが有難いことに僕が常勤で入ることを望んでくれていた保護者の方が多かった。
そのせいか容赦なく予約が入っていた。
あと、紺野から流れてくる人も多かった。
紺野じゃ僕が外来に入る曜日は決まっているし、時間も限られているので患者には出来るだけわかりやすく説明はしてきたけれどとことん、話をすることはなかったように思える。
ここではもう少し、子供と親がどうやって病気と向き合うか。
かかりつけ医としての役割として丁寧に教えていきたい。
親がきちんと子供の状態を把握できるように、また夜間救急に頼らなくてもいいパターンはどれか、とか。
僕がきちんとすることで紺野や市立病院の医師の負担が少しでも減れば嬉しい。

患者が予約時に入力してある問診票が受付から回ってくる。
僕はさっと目を通した。

紺野でしていた事とは大きく異なる。
けれども今までの経験をフルに生かして、見落とさないようにしないと。

「中野さん、中野 美羽ちゃん、一診にお入りください」

最初の患者さんを呼ぶ。
僕は新たな一歩を踏み出した。
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