ばくだん凛ちゃん
今日は患者が多くて午後2時半に休憩に入った。

「お…」

ハルがいる事務所に寄ってみると

「あー!!」

僕を見て声を上げる凛。

「午前11時にお迎えに行ったのよ」

とはハル。

やっぱりねー!!

「桃ちゃんからずっと泣いてミルクも飲まないからって電話があって」

あの三角の目をした号泣の凛を見ていれば何となくそう感じていたけれど。

「凛、お疲れ様」

僕は凛を抱っこしてギュッと抱きしめる。
凛は嬉しそうに声を上げて笑っていた。
これが毎日通うなら、慣れてくるだろうけど。
多分、週3ならこれはしばらく続くだろうな。
特に凛みたいな強烈な甘えん坊は。

…今後の事を考えて10月にある4月入所申し込みをしよう。

「あっ…」

抱っこしていてもハルが視界に入ると必死になってハルの元へ行こうとする。
そんなにお父さんが嫌なのか?って聞きたくなる。
凛にとって絶対的な存在はハルなんだから仕方がない話なのだが。

「凛、お母さんの邪魔だからお父さんと一緒に休憩室に行こう」

そう言って事務所を出ようとすると

「ぎゃー!!」

と凛が叫んだ。
ダメだな、これは。

仕方なく事務所に凛を置いて部屋を出た。

実の父親がこれでは保育園の先生も大変だわ。
根気よく付き合うしか方法はないんだけどね。

ふと時計を見ると午後3時。
ヤバい。
10分で食事を終えないと夕診に間に合わない。
というのも僕が紺野とここを掛け持ちしていた時は夕診は午後4時半からだったが常勤医になると時間変更があり午後3時半からになった。

さっき休憩に入る前にチラッと見たけれど、確か予約が3時半から入っていたはず。
紺野は基本、小児科の夕診がなかったからまだこの時間帯は余裕があった。
その辺り、こういう診療所は忙しいな、と思う。

さっさと食事を済ませて診察室に戻る時、凛とハルの声が事務所から聞こえた。
楽しそうな笑い声が聞こえて、物凄く幸せな気分になる。
こんな事、仕事をしながら感じることが出来るなんて…忙しくても今までよりは幸せだなって思いながら階段を降りて行った。

< 115 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop