ばくだん凛ちゃん
「透、本当にごめんなさい」

9月も半ばを過ぎたころ。
ハルは入院した。
切迫流産で要安静。
家ではとてもじゃないけれど安静に出来ないので入院となった。

「いや、僕が無理をさせ過ぎたのかもしれない。
ゆっくり休んで、こちらの事は心配しなくて良いから」

凛を抱っこしながら片手でハルの頬を撫でる。

事務仕事とはいえ、ハルが病院の細かい部分をしてくれたおかげで僕も兄さんも助かっていたし、それに甘えていた部分もある。
それに家でも。
ハルは優しすぎるところがあるから僕の事を心配して自分の体調を無視して食事を作ってくれたり、家事もこなす。
僕が求めればそれに応じる。
…その件については本当に反省してます、こちらがごめんなさい、だよね。

「一時保育が無理な時は真由ちゃんが預かってくれるって。
僕も育児部分休業的な作戦で少しだけ仕事もセーブするから」



これ、紺野だったらきちんと子育てに関する制度を使えたのにな。
兄さんの自営業の手伝い、みたいな感じだから強くは言えないけれど兄さんは理解してくれている。
早速、病院のWEBサイトと院内掲示板に水・土の午前診の僕の枠は休診と月・火・木・金の夕診は当面17時30分で受付終了の旨を載せてくれた。
普段は18時まで受け付けているのに助かる。



『まあ、透がそれをしたらいざという時に女性医師は自分も遠慮なく休むことが出来るって思うでしょ?
僕が目指しているのは働きやすい職場だよ。
これからはね、女性の力がもっと必要になる。
だから透がそれを使うのはいい例になる』

兄さんはそう言って僕を励ましてくれた。



「真由ちゃんにも私から連絡を入れておくわ。
本当に彼女には迷惑を掛けっぱなしだし」

ハルはため息混じりに言った。

確かに。
いつかはきちんとお礼をしなくてはいけないな。

「じゃあ、ハル。
ゆっくり休むんだよ」

僕は凛をハルに近づけた。

「うん、ありがとう。
凛もごめんね。早く帰るからね」

ハルは凛の手を握った。
勘の鋭い凛はグズグズ泣き始める。

「ハル、また時間を作ってくるから」

そう言ってハルの額にキスをしてから愚図る凛を抱きしめて足早に個室を出た。
< 118 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop